ザ・バンク 堕ちた巨像

監督:トム・ティクヴァ

いやーまさかこんな傑作だとは思わなかった。世界各国と飛び回るスパイ映画のような面白さ。映画の面白さというものを抽出したような脚本が素晴らしく、この脚本家エリック・ウォーレン・シンガーは新人のようだが、かなり出来ると見た。巨悪に迫る過程が面白く、冒頭のすれ違い様の殺人、二重に仕掛けた暗殺、義足から犯人の追跡、そしてニューヨークのグッゲンハイム美術館での銃撃戦。このらせん状の美術館の空間を活かしたアクションがジョン・ウーばりですさまじい。昨日の敵は今日の友とばかりに追っていた暗殺犯との協力プレーが奇妙な友情になるところなんかもジョン・ウー映画っぽい。クライヴ・オーウェンナオミ・ワッツと大人のムードあるキャストもいいが、やはり一番いいのはアーミン・ミューラー=スタールではないか。晩年に贖罪を求めた味のある演技で、素晴らしい爺さん俳優だ。ドイツ時代、多くの傑作を撮った才人トム・ティクヴァが、ハリウッドに来てからはイマイチその才能を発揮していなかったが、ようやく実力を示したね。ラスト、イスタンブールの屋根裏で途方に暮れるクライヴ・オーウェンの顔がアップで終わる。この終わらせ方も気に入った。